29th Sep

640_shoku

食を切り口に見つめる60分
人生と人類の写真集

聖者たちの食卓 / Himself He Cooks

ナンバルワンで紹介する映像としては初のドキュメンタリーですね。世間では食がテーマのドキュメンタリーをチラホラみかけます。食の安全や、飽食に対する疑問や、地球環境とリンクする話……等々。でも、この映画はそのような疑問や問題提起などはなく、ただ淡々とインドのある特殊な食のシーンを綴っただけのドキュメンタリー映画です。

その「特殊」な食のシーンとは、インドの北西部にあるシク(スィク)教の総本山にあたるハリマンディル・サーヒブ(黄金寺院)で毎日行われる10万食の無料提供の食事風景です。作る人、食べる人、掃除する人、行列を整理する人……などなど、500年前から毎日続く10万食。

その1日を描くこの映画は、ナレーションもなければインタビューも無し。音楽が少しあるけれど、劇場に流れる音のほとんどは現地の環境音。……食器の音、火の音、調理の音、祈りの声。ダイナミックなカメラワークの演出もなく、数秒ずつのほぼ定点の画面がつなぎ合わされているだけ。それはまるで60分間かけてじっくりゆっくり噛み締めながら眺める写真集のよう。

時間とともに流れる大量の人、食料、燃料、食器、それらの絵から感じられることは人それぞれ。私は、効率かつ非効率、奉仕かつ仕事、貴重かつ無駄の矛盾、そしてその矛盾や曖昧を解決しないことを良しとすることに500年続く秘密を感じました。我々の個々の人生も問題を解決せずにただ持続することに尊い側面があるということに気づかされます。

きっと、いろんな人がいろんな人生や世界人類のことを想像すると思います。食料問題やエネルギー問題を感じる人もいるでしょう。貧困に対する解決策を思いつく人もいるでしょう。オーガニックな食事に思いを馳せる人もいるでしょう。言葉の説明がないからこそ、ひとそれぞれの想像がふくらむ写真集。それを眺める60分。あなたも体験してみてください。
 

▶映画『聖者たちの食卓』公式サイト
2011年/ベルギー/65分
9/27より、渋谷アップリンク、新宿K’s cinema(モーニング上映)ほか全国順次公開!

(西村淳一)